クアルト・ミニ|「I cut, you choose」が生み出す、40年越しの変則四目並べ

四目並べといえば、自分のコマを自分で選び、縦・横・斜めに4つ並べるゲームを思い浮かべる方が多いと思います。
ところが、このゲームはちょっと変わっています。
自分が置くコマを、自分で選べないのです。
相手から渡されたコマを、こちらが盤上に置きます。
そして今度は、自分が相手のためにコマを選びます。
その繰り返しの中で、4つの共通する特徴を持つコマを一列に揃える。
その名も――**「クアルト(Quarto)」**です。
今回ご紹介するのは、Gigamic(ギガミック)から発売されている小型版、**「クアルト・ミニ」**です。
見た目はとてもシンプルですが、実際に遊んでみると相手の狙いを読み、自分が相手に渡すコマまで考えなければなりません。
しかも、このゲームにはかなり長い歴史があります。
クアルト・ミニとは?
クアルト・ミニは、フランスのゲームメーカー**Gigamic(ギガミック)**から発売されている2人用のアブストラクトゲームです。
作者は**ブレーズ・ミュラー(Blaise Muller)**です。
Gigamic公式では、対象年齢8歳以上、2人用、プレイ時間10~20分。
16個の木製コマと4×4のゲーム盤を使って遊びます。
ミニ版の盤面は18×18cmとコンパクトで、持ち運びやすいサイズになっています。
基本的なゲームシステムは、1991年に発売された「Quarto」と同じです。
まずはルールを簡単に
16個のコマは、すべて違います
クアルトには16個のコマがあります。
それぞれのコマには、4つの特徴があります。
- 明るい/暗い
- 高い/低い
- 丸い/四角い
- 中央が空洞/詰まっている
つまり、16個のコマはすべて異なる組み合わせになっています。
ここがクアルトというゲームの土台です。

↑なんとコンポーネントの美しいことっ!
自分が置くコマを、自分で選べません
ここがクアルト最大の特徴です。
普通の四目並べなら、
「このコマをここに置こう」
と、自分でコマを選びます。
しかしクアルトでは違います。
相手が、自分の置くコマを選ぶのです。
相手からコマを1個渡されたら、そのコマを盤上の好きな空いている場所に置きます。
そして今度は、自分が相手に渡すコマを選びます。
つまり、
相手がコマを選ぶ
↓
自分が置く
↓
自分が相手にコマを選ぶ
↓
相手が置く
という流れを繰り返します。
この独特のシステムを、Gigamicでは
「I cut, you choose」
と表現しています。
直訳すれば、
「私が分ける、あなたが選ぶ」
という意味です。
クアルトの場合は少し意訳して、
「私が選択肢を作り、あなたがその中から選ぶ」
くらいのニュアンスで考えると分かりやすいでしょう。
ただし、クアルトでは単純に「選択肢を作る」というだけではありません。
自分が相手に渡すコマを選ぶことそのものが、ゲームの一手になっています。
ここが、このゲームの面白いところです。
4つ揃えば「クアルト!」
では、どうやって勝つのでしょうか。
盤上の縦・横・斜めのいずれかに、4個のコマを並べます。
そして、その4個に少なくとも1つ共通する特徴があれば勝利です。
例えば、
4個とも明るい
4個とも丸い
4個とも高い
4個とも空洞がある
といった具合です。
複数の特徴が同時に共通していても構いません。
重要なのは、
4個すべてが、何らかの1つ以上の特徴を共有していること
です。
しかも、その4個のコマを自分だけが置いた必要はありません。
盤上にある4個のコマが条件を満たせばいいのです。
そのため、相手が置いたコマによって、自分が勝利することもあります。
「どこに置くか」だけではありません
ここが普通の四目並べとの大きな違いです。
通常の四目並べなら、
「自分はどこに置けば勝てるのか?」
を考えます。
クアルトでは、それだけでは足りません。
自分が次に置くコマは、相手が選びます。
そのため、
「相手は次に、どのコマを渡してくるのか?」
まで考える必要があります。
さらに自分のターンでは、
「どのコマを相手に渡せば、相手がクアルトできないのか?」
を考えなければなりません。
つまり、
置く場所を考える。
↓
相手が置く場所を考える。
↓
相手に渡すコマを考える。
↓
そのコマを相手がどこに置くか考える。
という、ちょっとした先読み合戦になります。
ルールだけを見ると、とても簡単です。
ところが実際に遊んでみると、
「このコマを渡したら相手が勝つじゃん!」
という状況が普通に起こります。
ここからクアルトの本当の面白さが始まります。
クアルトはいつ生まれたのでしょうか?
ここからは、このゲームの歴史です。
作者のブレーズ・ミュラーはスイス出身の人物です。
クアルトの原型は1980年代に考案されました。
そして1985年、現在のクアルトにつながるプロトタイプが、フランスのゲーム創作コンテストで評価されます。
このときの作品名は、現在の「Quarto」ではありません。
「4×4」
という名前でした。
その後、この作品がGigamicの創業者たちの目に留まり、1991年に「Quarto」として商品化されます。
つまり、
1985年
「4×4」として登場
↓
1991年
Gigamicから「Quarto」として発売
という流れです。
ギガミックにとっても特別なゲームです
クアルトの歴史を調べていくと、もう一つ面白いことがあります。
クアルトは、単なるGigamicのヒット作品ではありません。
Gigamicという会社の歴史そのものに関係するゲームなのです。
Gigamicはジャン=クリストフ、リュドヴィック、ステファンのジール兄弟によって設立されました。
彼らがゲーム事業へ進むきっかけの一つとなったのが、ミュラーの「4×4」との出会いでした。
その後Gigamicは、「Quixo」や「Quoridor」など、木製コマを使ったアブストラクトゲームを数多く手掛けるメーカーへと成長していきます。
現在のGigamicを代表するシリーズの原点に、クアルトがあるわけです。
作者・ブレーズ・ミュラーという人物
クアルトについて調べていると、作者であるブレーズ・ミュラー自身も気になってきます。
というのも、ミュラーは一般的な「ゲームデザイナー」とは少し違った経歴を持っているからです。
ミュラーはスイス出身で、1968~1971年にバーゼルのÉcole des Arts et Métiers(フランス語で直訳すると 「工芸・技術の学校」 みたいな意味です。)で学んでいます。
その後、長い期間にわたって**額縁職人(30年以上も!)**として働いていました。
つまり、ゲームだけを専門にしていた人物ではありません。
造形や工作と関わりながら活動してきた人物で、ゲーム以外にも、造形芸術、ロボット、プログラミング、電子工作などに興味を持ち、実際にそうした活動を行っています。
クアルトの木製コマを見ていると、この経歴はなかなか興味深く感じます。
単なる「ゲームの駒」ではなく、一つ一つが異なる形を持った小さな造形物になっているからです。
そして、その造形には数学的な構造もあります。
4つの特徴がそれぞれ2種類。
その組み合わせによって16個のコマが作られています。
2⁴=16
という、非常にきれいな構造です。
ミュラーはゲームについて、数学的な側面と芸術的な側面が交差するものという趣旨の考えを語っています。
クアルトは、まさにその考え方を形にしたようなゲームです。
「ゲームをたくさん作る人」ではありません
ここもミュラーを知るうえで重要なところです。
ゲームデザイナーというと、毎年のように新作を発表する人物を想像するかもしれません。
しかし、ミュラーはそういうタイプではありません。
クアルト以外にも作品はありますが、非常に多作なゲームデザイナーというわけではありません。
代表的な作品としては、2015年の**「Le Bois des Couadsous (クアドゥスーの森) 」**などがあります。
1985年に「4×4」を発表してから、長い年月を経て再びゲーム作品を発表していることからも、ゲーム制作だけを職業の中心としていた人物とは少し違うことが分かります。
本人へのインタビューからも、ゲーム業界に積極的に売り込み続けるというより、自分の興味のあるものを作ることを続けてきた人物という印象を受けます。
クアルトという大ヒット作がありながら、ゲームデザイナーとして大量の作品を残すことには、あまり執着していなかったようです。
そしてクアルトは40年近く生き残っています
1985年の「4×4」から数えれば、クアルトにはすでに約40年の歴史があります。
1991年の発売から数えても30年以上です。
その間に、
- Super As d’Or
- Mensa Select
- Parent’s Choice Award
- Spiel des Jahres推薦
- Vuoden Peli
など、複数の賞を受賞しています。
Gigamicによれば、クアルトはこれまでに150万個以上が販売され、約60か国、30以上の言語で展開されています。
一時的に流行したゲームではなく、長い時間をかけて遊ばれ続けているゲームです。
「I cut, you choose」がクアルトを特別にしている
クアルトを説明するとき、私はこのゲームの魅力を「四目並べ」とだけ説明するのは少しもったいないと思います。
むしろ、
「I cut, you choose」
という考え方に注目すると、このゲームの特徴がよく分かります。
自分が相手に渡すコマを選ぶ。
相手は、そのコマを使って自分の番をプレイする。
つまり、自分の手番では、
自分のための選択
だけではなく、
相手に何をさせるかという選択
まで行っています。
そして相手も同じことをします。
この仕組みが、たった16個のコマと4×4の盤面に、独特の読み合いを生み出しています。

↑どこが揃っているかお分かりいただけるだろうか?
まとめ
クアルト・ミニを単に、
「小さい四目並べ」
として見ると、少しもったいないゲームです。
その正体は、1980年代にブレーズ・ミュラーが考案した「4×4」を起源とし、1991年にGigamicから発売されたアブストラクトゲーム「Quarto」の小型版です。
4×4の盤。
16個のコマ。
4つの二択属性。
そして、
「自分が置くコマを相手が選ぶ」
という独特のシステム。
さらに、自分が相手に渡すコマまで選ばなければなりません。
「I cut, you choose」私的には「江戸の仇を長崎で討つ」といったところでしょうか。
実際プレイしてみると、
あ、そこの四角のライン潰された!狙っていたのに!
↓
ならばこの渡された、穴あき暗め高四角でこの丸ラインつぶしたらぁあ!
↓
この穴なし暗め低丸を配置してみろや!!
↓
お次はコイツか、穴なし明るめ高丸ね。……。んぁあ!!?穴なし揃ってクアルト!!江戸の仇は長崎で討ちとったりぃいい!!!
と、思わぬところで予期せぬ勝利が幾度とあります。逆もまた然りですが。
ルールはいたって簡単です。
しかし、実際に遊んでみると、
「このコマを相手に渡したら……勝たれるぞ」
と気づく瞬間があります。
そこから始まるのが、クアルトの面白さです。
たった16個のコマなのに、相手の思考まで読まなければならない。
だからこそ、40年近く経った今でも色あせないのでしょう。
小さな盤面に詰め込まれた、数学と造形と駆け引き。
クアルト・ミニは、そんなゲームデザインの美しさを気軽に味わえる一作です。
是非、江戸の仇を長崎で討ちとってみてくださいませ。


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